2年ほど前から熱中小学校の特別教諭を拝命している。熱中小学校?ん?何それ?という向きのために、まずその概要をHPトップから転載する。
2015年10月、山形県高畠町に「起業家精神・最新技術・里山文化」を学ぶ学校“熱中小学校“が誕生。2018年8月に熱中小学校初となる30名の卒業生が誕生しました。楽しいことをしたい方、何かを始めたい方、ぜひ熱中小学校で一緒にその夢をかなえませんか?熱中小学校にはワクワクが溢れています!
https://www.takahata.necchu-shogakkou.com/
大人が「もういちど7歳の目で世界を・・・」というコンセプトで、廃校になった小学校校舎の有効活用も図るこのプロジェクトは、山形・高畠を嚆矢として、現在は北海道から宮崎まで国内14校、海外も米国シアトルに第1号校がスタートしている。本プロジェクトの創立メンバーで「用務員」として采配を揮う堀田一芙氏とは、同氏が日本IBM、私が東京三菱銀行(当時)システム部に属していたころからの縁もあって、「特別教諭」という権威ある(らしい)お役を仰せつかった次第。
■ 「特別教諭」の楽しみ
私の第1回授業は2018年8月、上記高畠の卒業式の出し物。「地方創生に貢献=団塊世代の心得」と題して、50~60歳代を中心にその前後の年代も含めて50名あまりの生徒さんと1時間あまり、授業と質疑応答のひとときを過ごした。私自身が1948年生まれの団塊世代で、その大きな集団が古希を過ぎるなか、「若い世代のお荷物になってはならない。明るく元気な人生を送ることが、自分にとっても周囲にとっても極めて大切であり可能である」ことを強調した結果、まずまず好意的なコメントをいただくことができた。(これに反対する人はいないだろうが。。)
気を良くしていたところ、昨年は鳥取・琴浦町、シアトル郊外のベルビュー市からも声がかかり、4月と6月に出張授業に出掛けた。さらに今年の2月には徳島・上板町と盛況が続き、回を重ねるごとに(ほぼ同じ趣旨を繰り返しているので)負担感も減り、私自身の熱中度が高まっている。失礼ながら、琴浦も上板もそういう理由がなければなかなか訪れる機会のない場所であるが、行ったついでに琴浦では鳥取砂丘、上板では鳴門のうず潮と文楽と、プラスアルファの楽しみもあった。
以下はとくしま上板熱中小学校での授業(「人生100年時代の到来=明るく元気に長生き」2020年2月22日)の抜粋。
■ 100年の人生に向けて
わが国で100歳以上の高齢者は2019年に初めて7万人を超え71,274人に達した。同年度中に100歳に到達する人は約37千人。1919年の出生数は1,778千人だったから、50人=つまり小学校のクラスに1人が100年人生を経験する時代になり、その比率はますます高くなるだろう。もしかして自分も、と考える時代。昔の童謡「船頭さん」には「今年60のお爺さん」という歌詞があったが、今は70過ぎても「爺さん」の自覚なし。
人生100年に向けて3冊の参考書籍を紹介したい。第1は、『LIFE SHIFT-100年時代の人生戦略』(リンダ・グラットンほか、東洋経済新報社、2016年)。人生が60年から100年になれば、学生~仕事~リタイアの3段階の真ん中=現役期間がほぼ倍増する。この50~60年のなかで職場や働き方を2~3回変える、ステージの合間には少々の息抜きと新たな知識や技術の学びというのがグラットン先生の提案。熱中小学校の発想と近い。
■ 2050年に想いをめぐらす
人生100年となれば、1948年生まれの私は2050年近くまで見届けられる計算。そこで第2は『2050年の技術』(英『エコノミスト』編集部、文藝春秋社、2017年)。21世紀は、コンピュータと通信技術の幾何級数的進歩がもたらすデータの時代。技術進歩のお蔭で食糧危機は起きず、エネルギーは潤沢、医療も飛躍的に進歩する。AI・ロボットが人間の仕事を代替し、人間ではできなかったこともできるようになる。
そして第3のお薦めは『新ビジョン2050』(小宮山宏ほか、日経BP社、2016年)。20世紀=高度成長期はモノの豊かさを実現してきたのに対し、21世紀は「飽和」の時代、質の豊かさを実現できる100年。世界の人口は増加を続けているが、先進国は人口減少に向かいつつあり、新興国も豊かになれば人口爆発が止まる。21世紀後半には飽和点に達する。工業製品は広く世界に行きわたり、資源リサイクル、省エネにシェアド経済の浸透で、モノへの需要はさらに減る。新技術はQuality of Lifeの改善を目指す。
これらに対し、将来社会を警戒的にとらえる見方が『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』(ユヴァル・ノア・ハラリ、河出書房新社、2018年)。情報とバイオの双子の革命が進むなか、人間至上主義はデータ至上主義に変容し、一握りの超人と大多数の無用の人間という夢のない世界が出現する可能性を警告する。私は、その対極ともいえる『21世紀の啓蒙 理性、科学、ヒューマニズム、進歩』(スティーブン・ピンカー、草思社、2019年)をお薦めしたい。長い目で見れば世界の様々な問題は改善している。理性・科学・ヒューマニズム・進化を正しく適用すれば世界はよくなる。温暖化・災害、ポピュリズム・二極化、テロなど目先の悲観論にクヨクヨしなくてよいとの有り難いご託宣。
■ 21世紀の社会課題解決はオープンイノベーション
もちろん現実の世界には、解決すべき厄介な難題が山積している。が、課題解決の手法も、20世紀と21世紀では異なることに注目したい。20世紀後半、日本の高度成長を背景に発生した公害や大気汚染などの社会問題への対処は、基本的には政府の仕事とされ、物量(モノ、カネ、エネルギー)の投入による解決が図られた。21世紀、財政余力も制約を受けるなか、社会課題の解決は、使っても減らない情報・知識と、無限の可能性を秘める技術と人間の知恵を原動力とすべきである。民間企業やNGOが、オープンイノベーションを活用してビジネスとして成立・持続し得るソリューションを開発・事業化する。政府はそのサポートに徹するのが望ましい。
イノベーションが社会課題解決をもたらす代表例は、電気自動車である。それは単にガソリンに代わって電気自動車という新製品が登場するだけではない。電気自動車+ライドシェアの組み合わせで、自動車の所有+走行コストは、ガソリン車の1/4~1/10になる。自動運転も付け加われば、交通事故も交通渋滞も解消、道路も狭くてよい。当然ながら、省エネ、環境・温暖化問題の解決にも結びつく。これを皮切りに、徳島では、エネルギー、食糧、医療の各分野におけるイノベーション、課題解決の事例を多数ご紹介したが、紙面の制約もあり省かせていただく。
■ 超高齢化社会に生きる団塊世代の心得
いま日本が突入しつつある超高齢化社会も、様々な新技術とイノベーションを活用することで明るい展望が開ける。ただし、間もなく後期高齢期に達する団塊世代は、何しろ人数が多いだけに、社会への負担を軽減するよう自らも努力することが求められる。医療・介護費用増大が深刻化するなかでは、まず何よりも病気にならないこと、医者・病院の世話にならないことである。欧米と比べ日本人は平均入院日数が長い。だが、長期間の入院が筋力低下、認知症発症などのマイナスを生むことも見逃せない。
そのうえで「お迎え」がきたらときにはあっさりと別れを告げる、いわゆるピンピンコロリは、私を含む多くの人の密かな願望であろう。そのためにも、その日までを明るく元気で幸せに過ごすこと、これが「団塊世代の心得」である。
「幸せな加齢の5条件」は、①栄養、②運動、③人との交流、④新しい概念の受容れ、⑤前向きな思考、とされる。心身ともに元気で長い人生を送る秘訣であり、団塊世代の心得ともいえよう。熱中小学校は、必ずしも高齢者だけを対象とするものではないが、5条件の後半の3つをしっかり充足する。生徒さんもそうであると同時に、特別教諭の私も、初めての土地を訪れ、勝手なおしゃべりをしながら仲間を増やす、そこには新鮮な驚きと発見も少なくない。高齢者にとっては、地方都市に出掛けることも運動と言えるし、特産の美味いもので栄養もつけられる。まさに願ったり叶ったり、熱中小学校に熱中する所以である。
■ SSDCにも熱中?
そんな実り豊かな徳島旅行から戻って10日も経たぬうち、世は新型コロナの大騒ぎとなった。三菱総研も3月3日から原則在宅勤務に切り替わっている。不要不急という言葉には少し抵抗もあるけれど、たしかにリモートワークでも仕事は何とか回る。むしろ出勤のわずらわしさが省ける利点もあるが、それには運動不足のリスクを伴いがちである。幸い、私はSSDCの本郷オフィスから徒歩5分の距離に住んでいるので、朝9時過ぎにSSDCに出勤し、何もなければ夕方までそこで過ごすワークスタイルが日課となりつつある。いずれ、これにも「熱中」する日が来るかもしれない。